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日々の泡をぷくぷくぷく・・・


by harumerci

森に眠る魚

角田光代さんの作品を読むのは「八日目の蝉」以来。この人はどうしてこんなに女性の内面をうまく言葉にできるんだろう、と改めて思いました。
女性だけじゃない、人間誰しも表面上は見せないようにしている沼のような沈んだ感情。嫉妬、妬み、焦燥、独占欲…こんなはずじゃない、どうしてこんなことになってしまったんだろう、私がこんなに辛いのはあいつが悪い…そんな感情のひだが緻密に書かれています。

物語は、東京の文教地区に住む5人の母親、それぞれの目線で進んでいきます。始めは仲の良かった母親たちが「小学校受験」をきっかけに互いに疑問が生まれ、ズレが生じ、どうしようもできない状態に陥ってしまうというもの。
かつて世間を騒がせた、文京区音羽で起きた「お受験殺人」をモチーフにした作品でもあります。

お受験を巡る母親の話なんて自分とは縁遠い世界だ、と読みはじめたときは思っていたけど、読み進めるうち5人の母親たちそれぞれの感情に共感できて、しかもそれはいわゆる「負」の感情で、自分の中にもある不安な気持ちをこの母親たちは代弁してくれているとさえ思うようになりました。

物語の後半、母親たちが互いに負の感情を抱き、その関係性のみにがんじがらめになっていく様は圧倒的です。息ができないような、どこにも行けないような感覚が、読んでいても迫ってくるようでページを繰る手を止めることができませんでした。

母親であること、妻であること、女性であること、これから先続く日常のこと、いろんなことがぐるぐる頭を巡り、まだ整理がつきません。私にもこんな感情を揺さぶられるような日常が待ち受けているのでしょうか。
by harumerci | 2012-04-07 16:53 | book・cinema